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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)10437号 判決 1999年3月30日

原告

倉元俊子

右訴訟代理人弁護士

佐井孝和

島尾恵理

田端聡

被告

山一證券株式會社

右代表者代表取締役

野澤正平

右訴訟代理人弁護士

吉田清悟

主文

一  被告は原告に対し、金一八七万〇三七七円及びこれに対する平成九年一一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、金四一九万八四二一円及びこれに対する平成二年一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、証券会社である被告をとおしてワラント及び投資信託を購入した原告が、被告に対し、適合性原則違反、説明義務違反等を理由に不法行為及び債務不履行に基づく損害賠償請求をした事件である。

一  基礎となる事実(争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

1  被告は、有価証券の売買の取次等証券業全般を目的とする株式会社である。原告(昭和一三年一二月一五日生まれ)は、被告安倍野支店において被告と取引をした者で、被告の担当者は証券外務員花田雅子(後に藤本雅子と改姓。以下、「藤本」という。)であった。

2  原告は、被告に対し、平成元年八月一八日、単位型株式投資信託であるファンダメンタル89―08(好業績株型)(以下「ファンダメンタル」という。)一五〇〇口、単価一万円(合計金一五〇〇万円)を申込み、その受益証券を購入した。

ファンダメンタルとは株式投資信託であって、株式の組入れ枠に制限を設けず積極的に投資して信託財産の成長を目指すものである。信託期間は、五年で、うち一年間はクローズド期間があり、極めて例外的な場合を除き右期間内には換金できない。

3  また、原告は、平成二年一月二三日、被告に対し、新日本製鐵ワラント(以下「新日鉄ワラント」という。)を四ワラント、単価二三万九〇〇〇円(合計金九五万六〇〇〇円)の買付を委託した。

新日鉄ワラントは国内ワラントである。ワラントとは新株引受権証券であり、発行会社の定めた割合(付与割合)によって、一定期間(行使期間)内に、一定の価格(行使価額)で一定量(額面金額×付与割合÷行使価額)までの株式を引き受けることができる権利である。

4  原告は、ファンダメンタルのクローズド期間内において、被告の紹介を受け、日本証券金融株式会社(以下「日証金」という。)から、平成元年一〇月一九日に一〇〇万円、平成二年四月一三日に一三〇万円、さらに。同年八月二四日に一七〇万円を、それぞれ借り入れた。

5  原告は、右ファンダメンタルのうち二〇〇口を、平成元年一〇月一九日、子である倉本雅章(以下「雅章」という。)口座へ移し、平成二年一一月九日に自己名義一三〇〇口及び雅章名義二〇〇口をいずれも単価七九六五円(合計金一一九四万七五〇〇円)で売却したが、その売却金の一部は日証金からの借入金及びその利息の支払に充てられた。

また、原告は、新日鉄ワラントを平成五年二月一日に四ワラント全てを売却したが、右ワラントの売却総額は一三七〇円であった。

6  原告は、平成九年一〇月一六日、本件訴訟を提起した。

二  争点

1  適合性原則違反、説明義務違反等の有無

2  消滅時効

3  損害額

三  当事者の主張

(原告の主張)

1 原告は、昭和一三年生まれの主婦であり、夫が昭和六二年一一月に死亡後、大学生の子をかかえ学費の捻出に苦慮して、夫の生命保険の給付金を銀行より利回りは良くかつ安定性も高い証券には投資していた程度でそれまでは証券投資の経験はなかった。

ところが、原告は、平成元年夏に宝くじ二〇〇〇万円に当籤したため被告に架電し、「銀行より利息が良くて確実なものがあれば、そちらに貯金させていただきたい。」と言ったところ、藤本からは、ファンダメンタルにつき、ワラント等の組入れもでき、元本割れの危険性があるとのリスクについては何ら説明がなく、そのパンフレット等の書面の交付もないまま、ファンダメンタルを勧誘されて購入した。

新日鉄ワラントについても、原告は、藤本から電話で「とてもいいものがあります。新発の新日本製鐵のワラントの割当てがあったので、原告に持ってもらおうと思います。いつでも株に変えられます。一〇〇万円まで買えますから買ってください。」と勧誘され、勧誘時間も三分程度で、ワラントの仕組みや危険性については全く説明されず、むしろ行使期限のあるワラントを「いつでも」株に変えられると虚偽又は誤解を生ぜしめる表示を用いて勧誘され、これを購入するに至った。

これら藤本の原告に対する行為は、いずれも、原告にとって適合性のない商品を、説明もないまま勧誘したもので、新日鉄ワラントについては虚偽又は誤解を生ぜしめる表示を用いたものであり、いずれも不法行為に該当し、被告の業務の執行につき行われた。

また、原告と被告は証券取引に関する継続的委任関係があったというべきであり、受任者として善管注意義務(民法六四四条)を負っていることはもちろん、被告の証券取引に関する専門性、その社会的信頼からすれば、委託契約上の付随的義務として、あるいは信義則上、具体的な受任に先立ち当該証券が内包する危険性について原告に十分な説明をする等の契約上の注意義務があり、被告はこれに違反した。

2 原告は、ファンダメンタル及び新日鉄ワラントの勧誘につき、違法とか損害賠償とかを認識できず、しかも体調不良、交通事故等により被告への請求あるいは第三者への相談さえできなかった。そのため、原告が、本件の勧誘行為が違法と知り得たのは無料法律相談に赴いた平成九年六月以降であって、消滅時効についてもこの日を起算点とするべきである。

仮に右起算点が採用できないとしても、原告からすれば、事実的不法行為と異なり契約から生じた損害賠償請求権であること、証拠が著しく偏在していることから、三年の不法行為の消滅時効や五年の商事債権の消滅時効は全く認識しえず、また病気等のため権利主張ができなかったのであり権利の上に眠っていたものではないこと、そもそも権利主張の困難な原告に不適合な商品を販売したのは被告であること等からすれば、被告の時効援用は著しく信義に反し権利の濫用に該当する。

そして、少なくとも債務不履行責任において商事時効の適用はなく、民法上の原則どうり一〇年と解するべきである。

3(一) 原告は、被告の前記債務不履行ないし不法行為により、次の損害を被った。

(1) ファンダメンタル

合計三二四万三七九四円

ア 値下がり損

三〇五万二五〇〇円

イ 利息金 一九万一二九四円

但し、ファンダメンタルを解約できなかったために、日証金から借入を余儀なくされたため生じた利息金。

(2) ワラント 九五万四六二七円

但し、購入額と売却額との差額。

(二) 過失相殺は、有意な落ち度が積極的に認められない限りなしえないところ、本件では、原告に投資経験、判断能力共になく、自ら損害を回避ないし減少させることはできず何ら落ち度がない。

(被告の主張)

1 原告は、大学生の子を有し事務的アルバイトができる程度の平均以上の社会人であるし、証券取引経験も昭和六三年九月に中期国債ファンドで損切りも経験済みである。そして本件取引の原資は宝くじの当籤金であって余剰資金である。

ファンダメンタルは、ワラントを組入れることができるが、ワラントの買付けは日経二二五先物等のプットオプション(売付権)の買いでリスクヘッジをするので、ワラントの組入れがあるからリスクが大きいとはいえない。現実に基準価格は当初元本の六〇パーセント強であって一般の投資信託とほぼ同率で、原告は17.6パーセント程度の損率で済んでいる。そして、勧誘行為も元本割れの危険は一〇〇パーセントないとはいえないが、まず大丈夫だと説明し、事前に元本無保証を告知したリーフレットを送付しており、原告が元本保証があると誤認したことはあり得ない。

ワラントは、現物株式に比し小額の投資で済むことから、証券投資としての損率は低い。

以上から、不法行為を構成するとの点は否認する。

また、被告には、原告主張の契約上の義務がないから債務不履行責任はあり得ない。

2 仮に不法行為責任があったとしても、原告は、遅くとも本件訴訟提起の三年前である平成六年一〇月一五日までには、説明の不存在と多額の取引損の発生を認識しており、本訴提起までに消滅時効が完成しているので、被告はこれを援用する。

原告の起算点の主張は失当であり、起算点は不法勧誘時ないし契約不履行時、すなわち説明ないし買付けをさせた時点とするべきである。

時効の援用が権利濫用であるとの主張も、時効制度の趣旨から、原告が病弱であることや、原告の知、不知が斟酌されるものでもなく、不法行為においては相手方が自明である本件では損害を知れば足り、勝訴の可能性まで知る必要はなく、濫用ではない。そもそも、平成三年秋には証券取引被害は公知の事実であった。

また、仮に原告主張の契約上の責任があるとしても、被告は株式会社であって五年間の商事時効が本訴提起までに完成しており、被告はこれを援用する。

3 原告主張の損害は、被告が原告に対して説明したところで、株価の上昇期待をもつ顧客が証券投資をしなかったり、早めに売り逃げたという関係にはなく、説明義務違反と損害の発生との間に因果関係が認めがたいし、因果関係があるとしても、詐欺取消されるべき取引ではない以上、過失相殺がなされるべきである。

第三  争点に対する判断

一  甲第六ないし第一七号証、乙第一ないし第一三号証、証人藤本証言、原告本人供述及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  ファンダメンタルは、株式投資信託であることから、本来的に元本割れの危険性を内包し、しかも比較的積極投資をする性格を有し、組入れられる対象としては、株式の組入れ割合には制限がなく、主に東証第一部上場株式の内から好業績が見込まれる株式へ投資するものであるが、新株引受権証券(ワラント)への投資を取得時における証券財産の総資産総額の二〇パーセント以下(同一銘柄の新株引受権証券へは同じく五パーセント)、同一銘柄の株式への投資は同じく一〇パーセント、証券取引所二部上場株式、上場予定株式も五パーセントまでは組入れ可能であり、転換社債も同じく一〇パーセント、外貨建て資産へも同三〇パーセントまでは組入れることが可能で、投資信託としては比較的危険性が高い部類に属するが、最も危険という訳ではない。

ワラントの価格は、発行会社の株価と連動して価格変動する面と当該ワラントの価格上昇に対する期待値の側面とを有し現物株式よりも価格形成は複雑で、株価より価格変動が大きい性質を有し、行使期間を超過すると全く無価値となるうえ、経過しないまでも行使期間が迫るとおおむね価値が下がる傾向にある。一方で、ワラントは、価値変動が大きいため少ない投資でより大きな収益も期待できる性質(ギアリング効果)を有する。

2  原告は、最終学歴は中学校卒であって、正社員として勤務したことはないが、アルバイトとして、郵便局、社会保険事務所等で働いていた。そして、原告の夫が、昭和六二年一一月二三日に死亡したころ、原告の子二人のうち長男は転勤のため、次男は四国の大学に在学するためそれぞれ別々に暮らしていたが、家計は、長男の給与、原告のアルバイト、次男及び日本育英会からの借入、あるいは親族からの借入等により、三人の生活費や次男の学費を捻出していた。

原告は、夫の死亡により生命保険の保険金約二〇五万円を受領し、昭和六三年二月四日、被告においてトップ(長期国債のファンド)を一〇〇口単位一万円(合計一〇〇万円)で購入し、初めて証券会社との取引を開始した。原告は、右のうち一五口を、同年九月二一日に単価九九四八円で売却して損切りをしているが、その後は平成元年四月及び五月にそれぞれ三五口、五〇口を利益を出して売却し、右トップ全体としては多少の利益を出した。その他、原告は、トップの売却金で、中期国債ファンドを購入した。

3  原告は、平成元年七月七日、宝くじで二〇〇〇万円の当籤金を取得し、とりあえず約一ヶ月ほど銀行に預金していたものの、被告からファンダメンタルのリーフレット等の送付を受けていたこともあり、より利回りの良い金融商品を求めて被告に架電した。そして原告は、同年八月一八日に保証小切手一七〇〇万円と現金一〇〇万円を持って店頭を訪れ、藤本からファンダメンタルのパンフレットを見せられながら説明を受けた。

右送付されたリーフレットには、「好成績が、なによりね。」と大書され、東証第一部上場株式のうちから好業績が見込まれる企業群の株式へ投資すること、五年満期で当初一年間は原則として換金できないこと等が八ないし九ポイント程度の文字で記載され、さら株式など値動きのある証券に投資するので元金が保証されているものではないこと等が五ないし六ポイント程度の文字で記載されていた。

そして、右パンフレットは三枚あり、ファンダメンタルと債権・ワラントファンド(公社債八〇パーセント、ワラント二〇パーセントを組入れる安定性重視型の投資信託)を比較検討して記載したもの、ファンダメンタルの運用対象である好業績株投資効率の良さ等を記載したもの、好業績株の収益の高さや満期及びクローズド期間等につき記載したものであり、いずれも主にファンダメンタルの利点を記載したものであった。

原告は藤本に対し、電話ないし店頭において、夫の遺産ということでまとまったお金があるが、子の学費も支出の予定もあるとして運用方法につき相談を持ちかけ、藤本は、原告の投資意向につき安全性ということも無視はできないがより利回りが良い商品が適合すると判断し、過去の実績利回りを伝えてファンダメンタルを推奨し、株式を運用対象とし積極的に運用すること、一年間のクローズド期間があることを説明したが、元本割れの可能性があるかどうかについては当時の好景気のもと藤本も元本割れするとは予想していなかったため、話題ともならなかった。そうして、原告は、ファンダメンタルを一五〇〇万円で購入した。

さらに、原告はファンダメンタル購入と同日、店頭で株式も購入したいと考え、その旨を被告に積極的に申し出て、商船三井株式を、総額九三万九四七〇円(単価九二八円)購入した。

4  その後、原告は、二男の学費の支払いのため、被告に対しファンダメンタルの解約を申入れたが、ファンダメンタルがクローズド期間内は顧客の死亡時等限られた場合しか解約ができないものであったため被告からは解約を断わられた。それでも原告は、資金の必要があったことから被告に相談すると、被告は日証金から借入れることは出来ると示唆したので、原告は、その当時松下電器産業の転換社債を一〇〇万円程度保有しておりその売却で資金需要を満たすことはできたものの、平成元年一〇月一九日、日証金から一〇〇万円を借り入れ、返済資金として所有有価証券の売却金を予定した。但し、その申込書の使途欄には、学費を支払えないことを恥ずかしく思ったため乗用車購入資金と記載された。

5  原告は、被告の店頭において株価表示を見ていたり、また、被告からパンフレットが送付されていたことから、平成元年一〇月二六日、被告に対し、ホームトレード山一という名称の家庭用ゲーム機を使用してオンラインで株価情報を知ることができるサービスを利用する旨申込み、使いこなせはしなかったが利用したこともあった。

原告は、ファンダメンタルの購入後は、自己名義口座においては、松下電器産業転換社債(一〇〇万円)を購入して一四日後に売却し、その売却金で松下電工転換社債(一〇〇万円)を購入したり、東芝転換社債(一〇〇万円)を購入したり、その売却金により凸版印刷転換社債(一〇〇万円)を購入したりした。

また原告は、藤本から勧められたが手持の現金がなかったため、子供に相談して現金一〇〇万円を用意し、雅章名義口座においてトプコン転換社債(一〇〇万円)を購入したりし、これらの全ての取引において利益を出していた。

6  藤本は、原告に対し、その当時までの好景気で一般にはワラントで効率よく利益が出ていたことから、新日鉄ワラントが新発のもので売却によりすぐに利益が出ると見込んで、電話により一〇分程度の時間で、株の値段と連動して価格が変動するがその何倍にも変動し少額の投資でも効率が良いこと、権利行使期間があり転換社債と同じように行使期限までに取引しなければならないこと等の説明はしたものの、権利行使期限の経過により無価値となることの説明はなく、もとよりワラントに関する説明書の交付もなかったが、原告は、これに応じて、平成二年一月、新日鉄ワラントの購入した。そして、原告は、損をしてまで売らないが、売り時があったら連絡して欲しいと藤本に依頼しておいた。

また、原告は同日、雅章名義口座において、関西電力転換社債(一〇〇万円)を購入した。

しかし一方で、原告は、さらに日証金から、平成二年四月一三日には一三〇万円を、同年八月二四日には一七〇万円を借り入れ、学費などに充てた。

7  原告は、平成二年八月ころ、ファンダメンタルを引き出そうとして架電したところ、値段が下がっていることを告げられたりして引き出さなかったが、翌九月にさらに架電すると元本を割っている旨を告げられ、購入当初の株式市況からすると思っても見なかったが、その値段が回復するまで待つこととなった。

しかし、同年一一月九日、ファンダメンタルの価格の回復は見られず、日証金からの借入利息のことも考慮し、ファンダメンタルを、原告名義及び雅章名義共に売却するに至ったが、その単価は八〇〇〇円を下回っていた。

8  原告は、平成三年秋ころ、ワラントについて藤本からその価格が下がっていることを聞いて売却しなかったものの、平成五年に至り被告に架電したところ、権利行使最終日が迫り売却しないと原告から現金を拠出してもらう必要があると聞きあわてて売却した。

9  その後も原告は、平成四年四月一三日には北海道電力株式(二〇二万円余り)、同年八月二六日には、雅章名義口座において大林組株式(五六万円余り)、平成八年九月二六日には自己名義口座においてJR西日本株式(三五万七〇〇〇円)と購入したが、このうち大林組は原告のアルバイト先の同僚からの情報により同じく雅章名義口座の関西電力転換社債から乗換えたものであるし、JR西日本株式は抽せんに申込んだ末に購入したもので、北海道電力株式と共に自己資金による購入であった。

二1  争点1について

(一) 債務不履行責任

専門家たる証券会社が、顧客に対し商品を勧めて販売する場合には、証人内容が複雑かつ危険を伴うものであるときには、契約準備段階における信義則上の義務として、当該顧客が自ら明らかにする投資経験、投資目的等に適合した商品を勧める義務があるし、また、右商品が一般的に知られているかあるいは勧誘している当該顧客が当該商品を熟知している場合でなければ、顧客が取引の意思決定するにつき不可欠な要素については説明するべき義務があるものと解される。

(二) 適合性原則

前記のとおり、原告は、中学を卒業後、正社員として勤めた経験はなく、投資経験としては、僅かに本件のワラント購入時点においてさえも、被告においてトップを購入してこれを三回に分けて売却したり、数銘柄の転換社債の売買を数度反復した程度である。また、投資原資も、宝くじに当籤するという思いがけないことで取得した金員であるが、夫を亡くし自らの勤務による収入だけでは子の学費及び生活費の仕送りさえままならない経済状態で、当然に生活資金に投ぜられるべきものであり余剰資金とは言い難い。また、原告は、ファンダメンタルと同時に商船三井株も購入しているが、その金額は、ファダメンタルが一五〇〇万円であるのに対し株式が九四万円足らずにとどまり、当時の家庭事情からして虎の子的な資金であることから、証券取引に投じたとしてもほとんどを安定性のある商品を選択しようとしたと考えるのはごく自然である。

そして、本件で問題とされるファンダメンタルは、投資対象としては株式を中心としながら、オプション、先物、指数取引まで組入れることができる商品であり、投資信託としては五段階で危険の大きな方から二番目に分類される商品である。

しかし、一方では投資信託一般としては、昭和二〇年代から法定され(昭和二六年六月四日法一九八号)歴史性のある商品であるし、単一の株式を購入するのに比し、専門家がリスクヘッジを考慮しつつ分散して運用していく性質を有しているのであって自己の判断の必要な側面は比較的小さい。しかも、顧客にとって元本割れの危険性があることやそれが組入れられる商品により危険性の度合いに違いがあること等はそれほど理解が困難なものではない。そして、原告も結婚生活を経て二子を養育し、アルバイトで働いているのであって通常の社会人としての良識は十分に有している。また、原告の投資意向は、安全性を基本とするものではあったが、それでも一時は銀行預金としながら、銀行預金よりも高利回りの商品を望んで被告との取引に及んでおり、安全を重視する側面があったものの安全性を唯一絶対の判断指針としていた訳ではない。

そうだとすると、原告にとって投資信託であるファンダメンタルを購入するにつき適合性がないとまで断じることはできない。

一方、ワラントは、前記のとおり、権利行使期間の経過により無価値となり、権利行使期間が経過しないまでも、それが近づくにつれて価格が下がる傾向があり、売却時を逃すと投資資金が全額損失となる性質を有し、それまでの証券とは一線を画する性質を有しており、本件でも新日鉄ワラント販売時においてはそのような商品の性格について未だ周知性があるとはいえないし、また、少額の投資で投資効率がよい側面が存するが、これもリスクヘッジが可能な顧客にとっては合理性を有するといえるのであって、原告は、自らの判断により適時の売却をするほどの投資経験はない。

よって、原告にとって、新日鉄ワラントの購入につき、適合性はなかったものと認められる。

(三) 説明義務違反

そして、ファンダメンタルの勧誘においては、原告のように預金との区別も付かない購入者に対しては、前記信義則上の義務として、最大の取引決定要因として最低限、元本割れの可能性があることの説明がなされてしかるべきであったのに、これはなされなかった。藤本証言中には、ファンダメンタルについて元本割れする危険性を説明した旨も存するが、右証言によってもファンダメンタルは本件取引当時好況期で実績を上げており、藤本自らも過去の運用実績から経費を差し引いても収益が一〇パーセントを下ることはないと予想していたものと認められるのであって、窓口担当者の藤本が元本割れの危険性についての意識も、これを説明するべきであるとの意識も明確に有していたとは考え難い。また、原告供述によれば、原告は元本保証であるか否かに着目した形跡も認められない(この点、原告はファンダメンタルの取引以前にトップの一部を損切りしているが、トップ購入全体一〇〇口の内一五口の売却であって、原告がこれを元本割れでの売却と認識していたとまでは認めがたい。)。これらの事実からすると、前記藤本証言中のファンダメンタルにつき元本割れの危険性があると説明したとの供述部分はにわかに信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

そうしてみれば、ファンダメンタルの勧誘につき、被告には説明義務違反があるといえる。

一方、ワラントについては、最低限行使期限の経過によりそれが無価値となることの説明は必要であるところ、その説明がなされていないことは、前記認定事実のとおりである。

よって、新日鉄ワラントに関しても、説明義務違反があったと認められる。

2  争点2について

まず、債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点につき検討すれば、民法一六六条一項により権利行使することができるときから起算するものであるところ、勧誘時と解するのは損失が生じるか未確定であるため相当でなく、一方当該債権者が第三者に相談したときなどを起算点とするのも時効制度の趣旨に照らし妥当ではないが、少なくとも損失額が確定したときには期限の定めのない債務として具体的請求権として発生し、右時点においては訴求するにつき法律上の障害がないことから、右をもって起算点と解すべきである。

次に、本件の債務不履行責任について商事時効の適用があるか否かについては、商法五二二条の趣旨は商事取引における迅速性を確保するために定められたものであるところ、本件訴求債権の法的性質は、契約内容の核心部分というものではなく、むしろ契約関係の外縁部分として認められる債務であって、その内容も非定型的で、訴求するとしてもその義務の有無、内容の確定など困難な事情が生じるころは否めない。かかる性質を有する債務については、通常の商行為によって生じた債権とは異なり、右条項の趣旨が及ぶものとは考えがたい。よって、右商法上の短期消滅時効の適用はなく、時効期間は民法上の原則に戻り一〇年と解される。

そうだとすると、本件においては、ファンダメンタル及びワラントのいずれにおいても、債務不履行に基づく損害賠償請求権は、損失額の確定時から本訴提起までの間には時効期間が経過していないと考えられる。なお、不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から三年を経過しており、時効消滅していると考えられる。

3  争点3について

(一) 因果関係

前記の事実経過から、被告の債務不履行と、原告の新日鉄ワラント及びファンダメンタルの購入額と売却額との差額に関する損害との問の因果関係は認められる。

しかし、日証金からの借入の利息金については、本件の被告の債務不履行と因果関係がない。すなわち、原告は、ファンダメンタルの購入時に既に子の学費が必要となることは確定的であるのに、クローズド期間があることは認識しながらファンダメンタルを購入したものであるうえ、日証金からの一回目の借入の際にも他の有価証券の売却により学費の捻出が可能であったのに借入を選んだものであって、日証金からの借入は、被告の紹介があったとはいえ、原告の判断に基づくものであり、利息が生じる結果が生じた直接の原因は、原告の行為にあるといえるからである。

(二) 過失相殺

原告は、ファンダメンタルにつき、少なくとも利回りの変動があることまでは認識していたこと、投資信託は歴史性があって新商品ではなくその性格を知ることに困難な事情は特に見受けられないこと、本件においてもその性格についてはリーフレットには元本割れの危険性があることが小さな文字ではあるが記載されていること、ファンダメンタルのリーフレットが一枚限りで、記載されている文字数も少ないこと、元本割れがあるか否かは極めて基本的な性格であって金融商品に関し素人であっても、より利回りの良い金融商品を求めて銀行預金から乗換えようとする一般社会人としての知能を有する通常人にとっては、株式を組入れることについて説明を受ければ、元本割れするか否かについて質問することも困難ではなく、原告はファンダメンタルの損失が確定し、さらに新日鉄ワラントの損失が確定した後においても新たな資金により株式取引を僅かながらしていたのであって、藤本も原告からその質問を仮に受けていれば説明をしていたであろうと予想されるのに原告はこれをしなかったことを考慮すると、原告に過失があったと見るのが相当であって、その割合は七割を相当と認める。

これに対し、原告はリーフレット等書面を何も受領していないし、書面を示して説明を受けたこともないと主張、供述するが、前記認定事実のとおり、原告は当初株式にも興味を抱いて購入し、価格の変動に関しても店頭の表示板を見ていたり、パンフレットの送付を受けて自ら通信回線と家庭用ゲーム機を利用したホームトレードに申込み少なくとも一度は回線に接続していること等に鑑みると、商品知識に関してある程度の積極性があったとみるのが自然であり、原告が何らの書面の交付も書面を示しての説明もなくファンダメンタルを購入したとは考えがたく、原告供述中の右の部分はにわかに信用しがたい。一方、リーフレットが一枚限りのもので多数の顧客に送付することを予定していると見るのが自然であること等に鑑みると、この点に関する藤本証言の信用性は高いといえ、前記認定事実のとおり、リーフレットの送付を行っているものと認められる。

一方、ワラントについては、新しい商品であるうえ、その性格等理解が困難な側面があり、発行会社が順調であっても投資金額の全部が損失となる危険性があることについては、証券会社等から説明を受けなければ、原告のように投資経験がほとんどない者にとってはこれを想定することさえ困難であるといえる。よって、ワラントに関しては原告に過失は認めがたい。

(三) 附帯請求

そして、附帯請求については、本件の債務不履行に基づく損害賠償請求権が期限の定めのない債務であって催告を要し、少なくとも訴状の送達の日には催告をしていると考えられるところ、本件訴状の送達は平成九年一一月一一日になされたことは本件記録上明らかであるから、その翌日が附帯請求の起算日であると考えられる。

三  以上のとおり、原告の請求は主文記載の限度で理由があるが、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官渡邉安一 裁判官今井攻 裁判官武田正)

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